第85回全国学校歯科保健研究大会

令和3年10月21日(木)、第85回全国学校歯科保健研究大会がWEB開催されました。

特別講演

今回の特別講演の講師は、東京藝術大学美術学部美術学科 美術解剖学研究室教授の布施 英利 先生で、「芸術と解剖学の間に」というテーマでした。先生の若いころから、第一の研究テーマはルネッサンス時代の画家レオナルド・ダ・ヴィンチであったようです。科学と美が交差するレオナルド・ダ・ヴィンチの世界、そんな小さなジャンルに閉じない眼差しは、いつも布施先生の憧れの対象だったようです。

はじめは、解剖学ですがレオナルド・ダ・ヴィンチの著作もかなりあるそうです。彼はそのころ誰もやっていなかった頭部の解剖図も書いていたようです。人の右の背部の解剖図があるのですが、実際に解剖するとこれほど美しい図にはならないようです。このように、美術の解剖学は骨と筋肉が大事で、特に骨は重要であったようです。

次は、皆さんもご存じと思われます「最後の晩餐」ですが、この絵があらわしている人間模様は、キリストが「1人の裏切り者がいて、そのせいで僕は明日張り付けの刑になる」というと、みんなが、「本当ですか」というジェスチャーをしている様子とのこと。そこでレオナルド・ダ・ヴィンチは腕を使ってどのように骨格が動いているのかを研究したそうです。

東京藝術学校(東京藝術大学)の初代校長の岡倉天心や森鴎外といった美術に解剖学を取り入れ研究した先生のお話もありました。また、三木茂夫という先生の解剖学の特に海の生物についてお話も大変興味深いお話しでした。また、「こころ」が美術では一番大事でありその「こころ」の奥底にあるもので宇宙が作りだすあるリズムを感じとる能力とも繋がっているとのことです。人間や宇宙にとって一番の根源的なことである。芸術をやる人間はそこに焦点をあわせようとするべきで、それが解剖の根幹であると言っておられました。 

最後に今回の布施先生の講義であらためて美術の美しさを学ばせていただきました。また、美術と解剖という一見関係がないようでも今回の講演で深く関係していることを学んだのは僕だけではないと思います。

(伊藤 大亮 記)

基調講演

シンポジウムでは日本学校歯科医会副会長 柘植紳平 先生を座長に基調講演と3名のシンポジストによる発表が行われました。

はじめに、東京歯科大学市川総合病院呼吸器科教授 寺嶋毅先生より「COVID-19流行下における歯と口の健康づくり~新しい生活様式との両立~」と題して基調講演が行われました。(1)デルタ株により学童の感染や学校でのクラスターが増加したこと、(2)感染の減少には学校・社会での感染対策と職員、保護者等のワクチン接種が推奨されること、(3)マスク着用は有効な対策のひとつであること、(4)マスクには息苦しさや口呼吸、口腔乾燥などの弊害もあること、(5)口腔内を清潔に保つことはマスクによる弊害を予防しウイルス感染への防御を高める効果があることが示されました。

続いて、文部科学省初等中等教育局 馬場久美子先生、全国養護教諭連絡協議会会長 小林幸恵先生、日本学校歯科医会理事 柴田宏先生の3名からそれぞれ行政、養護教諭、学校歯科医の立場から「学校での新しい生活様式」を踏まえた学校歯科保健の実現への取り組みが発表されました。

ディスカッションでは口呼吸やその対策、熱中症予防と水分補給について、学校での歯磨きなど「コロナだからできない」ではなく「コロナでもできること」を学校だけではなく地域とも連携して歯科保健を進めていくことが確認されました。

(堀 稔 記)

領域別研究協議会

幼稚園・認定こども園・保育所部会

はじめに、アドバイザーの神奈川歯科大学歯学部小児歯科学講座 木本 茂成 教授より口腔機能発達不全症、幼児期の口唇閉鎖不全と口呼吸、舌の機能と構音についてのお話がありました。

 研究発表では、東京都荒川区立汐入こども園 大山祐子 園長より自然環境を生かした健やかな体づくりと食育活動に重点をおきながら職員・家庭・園歯科医・地域と連携を図り保健指導についての発表がありました。

 つぎに、大阪市立日東幼稚園 山中理恵子 指導養護教諭より小規模園の特性を生かした、継続した歯みがき指導と一人一人に寄り添った支援や啓発活動に取り組む発表がありました。

 コロナ禍の新しい生活様式で、幼児期の子供でさえマスクの着用を余儀なくされるなか、歯科保健活動の大変さや工夫がたくさん見られました。また、この時期だからこそマスク着用により隠されてしまう子どもの口腔習癖や口呼吸など、園関係者、園歯科医、保護者、地域が共に連携をとることの重要さを再認識しました。

(辻村 祐一 記)

小学校部会

先ずアドバイザーから導入として、講話アドバイザー鶴見大学歯学部 小児歯科学講座 朝田 芳信 教授より、「生きる力」をはぐくむ歯・口の健康づくりの展開を目指して〜学校での新しい生活様式〜学校における新型コロナウィルス感染症対策、新型コロナウィルス感染症と口腔保健の関わりについてのお話がありました。

1.生活習慣の乱れやストレスと口腔疾患の関連について

2.マスク生活と口腔環境・口腔機能の問題

(1)口腔習癖との関連性

(2)食事時の様子

(3)マスク生活と口腔機能の育成

在宅時間の増加を前向きに捉え、歯みがき習慣の確率やスキルの向上に繫げる学校での新しい生活様式

(1)感染予防を意識した生活様式

(2)疾病予防や口腔機能の育成を意識した生活様式を実践することが大切である。

・研究発表1

「健康課題を自ら解決し、行動できる子供の育成」〜学校・家庭・地域が共に歩む歯・口の健康づくりを通して〜 岩手県二戸市立金田一小学校 梅津 美里 養護教諭

それぞれの学校での保健委員会活動や学校歯科保健活動の実践について発表されました。

2つの学校ではフッ化物洗口を実施しているとのことですが、新型コロナウィルス感染症の影響でう蝕罹患率が上がっているとのことでした。

アドバイザーからの講評の後、両校を交えたディスカッションが行われました。やはり新型コロナウィルス感染症の影響で、「からだ」と「こころ」の両面に変化が出ている様なので、それに対応するように学校で活動していることが印象的でした。

・研究発表2

「ひびきあい・つながる・ひろがるは(歯)っぴー活動withコロナ」〜幸せ・楽しさ・アイデアいっぱい 歯・口の健康づくり〜 岐阜県美濃加茂市立太田小学校 稲垣 章子 養護教諭

(齋藤 嘉高 記)

中学校部会

 はじめに「導入」として、アドバイザーの日本大学歯学部衛生学講座 川戸 貴行 教授より、中学校で特に重要となる健康課題が示されました。日学歯の「生きる力を育む学校での歯・口の健康づくり推進事業」アンケート調査結果から、中学校では歯肉炎や口臭など新たな健康課題が現れ、また望ましい生活習慣への意識は学齢が上がるほど希薄化する傾向が見られることから、それらに対応する取り組みが望まれるということです。

 研究発表は2題、行われました。以下、要旨です。

・研究発表1

「主体的に活動する生徒の育成を目指した歯科保健活動~自分の健康は自分で守ろう~」

埼玉県熊谷市立富士見中学校 中島 良子 養護教諭

 市街地にある大規模校であり、全日本学校歯科保健優良校表彰 文部科学大臣賞などの受賞歴がある。

1)2名の学校歯科医により、年2回の健康診断が行われている。

2)生徒会保健委員会の生徒が自分たちで考え主体的に活動。

・給食後の歯みがき時の呼びかけ。

・歯と口の健康週間では標語作り、ポスター募集。

・生徒会主催の生徒朝会で歯と口の健康について発表

・CO、GOがある生徒、未治療歯がある生徒を対象に、放課後「歯みがき教室」を実施。

・3年生が小学校に行き、出前歯みがき教室を行う。紙芝居やパワーポイント映像を制作したりなど工夫を積み重ねて実施。

 全校一体となった継続性のある活動のためには組織作りが大切である。そして生徒会保健委員会の主体的な活動が必要不可欠。

・研究発表2

「歯と口の健康を守り抜くことで、生涯健康で生き抜くことのできる生徒の育成をめざして」

埼玉県加須市立加須平成中学校 青木 美子 養護教諭

 生徒数321名の小規模校であり、一人平均DMF歯数は年々減少し令和3年度は0.4。全日本学校歯科保健優良校表彰 文部科学大臣賞などの受賞歴がある。

1)1年生と3年生は各学級1時間、加須市保健センター歯科衛生士による歯みがき指導を実施。

2)2年生は学校歯科医による講話を行う。歯肉炎、歯周病、歯と口のけが予防、喫煙と歯の健康の関係など。

3)COと判定された生徒、歯列不正で磨き方に工夫が必要な生徒などには昼休みや放課後に個別指導を実施。

4)流しの数が足りないため、給食後は椅子に座ったまま音楽に合わせて歯みがき。歯ブラシ、手鏡、コップの準備を保健委員がチェックする。担任、副担任も生徒と一緒に歯みがき。養護教諭は各学級を巡回し、確認、指導をする。

5)歯と口の健康週間では標語、ポスターコンクールを実施。優秀作品は「歯みがきストリート」に掲示する。

6)毎年、第1回学校保健委員会のテーマは歯科保健。生徒保健委員、養護教諭からの発表の後、グループでディスカッションし、最後に学校歯科医の指導・助言がある。

7)近隣の小中学校5校で地域学校保健委員会を開催し連携を深めている。

8)学校歯科医による職員研修を行い、歯科保健に関する質問に答えてもらっている。

9)地域の幼稚園を保健委員が訪問し、歯と口の健康に関する寸劇を行ったり、模型を使って歯みがき指導を行う。

 長年の歯科保健活動の積み重ねにより、全職員が関わる活動の基盤ができている。学校と地域が一丸となって、継続した歯科保健の推進を図っていきたい。

(大川 晋一 記)

高等学校部会

アドバイザーの東京医科歯科大学 相田 潤 先生より、新型コロナ感染症流行時における学校での歯みがきについて、①小さめの歯ブラシを使う、②口を閉じて磨く、③すすぐときは静かに吐き出し人と人との距離を保って会話をしない、との注意点を上げられ歯ブラシからの飛沫を極力出さないことが重要であると話されました。

 研究発表では岩手県大東高等学校 学校歯科医 熊谷 博伸 先生より、「より効果のある学校歯科保健指導をめざして~学校での新しい生活様式の確立に向けて~」と題してむし歯ゼロへの取り組みついて発表されました。むし歯が多い生徒の生活習慣を統計分析し、昼食時に糖分入り飲料水をとると、水・お茶を飲むグループと比べむし歯になるリスクが非常に高くなるが、「1日の歯みがき回数」「甘いものを控える」「定期検診を受ける」との相関は低かった。

 コロナ禍での新しい学校歯科保健指導として、メールでの歯科の質問受付、スマホアプリを利用し生徒の口腔内の状態や全身の健康状態を非接触で把握しているとの紹介がありました。

 発表内容ではコロナ禍を意識した保健活動をされている点が印象的でした。

(塚本 晃也 記)

特別支援教育部会

領域別研究協議会特別支援教育部会ではアドバイザーを務める昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座口腔衛生部門 弘中 祥司 教授より「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が拓く新しい特別支援教育と歯科保健に関して解説が行われた後、千葉県立特別支援学校流山高等学園 須田 浩美 養護教諭と宮崎県立延岡しろやま支援学校 内山 優子 養護教諭の2名による研究発表がなされました。

流山高等学園では、卒業後生涯にわたって歯と口の健康を保つ力を身につけることを目指して健康診断時に工夫していること、昼食後の歯磨きの実施、フッ化物洗口の実施等について発表されました。

しろやま支援学校では障害のある児童が健康診断をスムーズに受診できるように模擬練習や学校歯科医の医院訪問を実施していることや、リモートによるWEB歯磨き教室を行っていること等が報告されました。

(堀 稔 記)