第70回北海道学校保健・安全研究大会札幌大会

 

 2023年11月26日(日)、ホテルノースシティにおいて第70回北海道学校保健・安全研究大会札幌大会が開催されました。開会式では学校保健功労者の表彰が行われました。学校歯科医は28名表彰され、うち7名が表彰式に参加されました。続いて北海道教育庁学校教育局健康・体育課課長の今村隆之氏より「北海道の子どもたちの健康」と題して行政説明が行われた後、基調講演がなされました。

 

○基調講演

演題:「コロナ禍と子どものこころ」

講師:国立成育医療研究センターこころの診療部 

コロナ×こども本部 山口 有紗 氏

 

 子ども時代の体験の将来への影響として虐待やネグレクトなどACEs(Adverse Childhood Experiences)と、ポジティブな体験PCEs(Positive Childhood Experiences)がある。ACEsを減らしてPCEsを高めることが重要である。コロナと心のウェルビーイングに関して、コロナ×こども本部で計7回のオンラインアンケート調査を行った。その結果、7割超が何らかのストレス症状を抱えていて、思春期世代では中等度のうつ症状のある子どもが16%であった。「死にたい」や「傷つけたい」と思っている子どもは小学生にも多い。うつだと思っても相談しない子は多く、抑うつが重いほど相談しない傾向にある。また、過半数の保護者が「心に負担」を抱えている。

 対応のポイントとして、子どもの「問題行動」に見えるものは氷山の一角で水面下にはトラウマがあるかも?と視点で見ると違うものが見えるかもしれない(トラウマインフォームド・ケア)。トラウマがあったときの反応として3つのF(Fight:たたかう、Fright:にげる、Frozen:固まる)があり、トラウマ症状が問題行動や発達障害と誤解されやすい。

 希死念慮への対応の原則はTALK(Tell:心配しているということを言葉にして伝える、Ask:「死にたい」気持ちについて率直に聞く、Listen:絶望的な気持ちを傾聴する、Keep safe:子ども・大人ともに安全を確保する)である。自傷行為への対応のポイントとして、行為を禁止するのではなくTALKの原則で寄り添うことが重要である。

 レジリエンスは個人が逆境をはね返す力ではない。学校や地域はレジリエンスになりえる。「SOSの気づき方」を大人が学ぶことも大切である。子ども抜きで子どものことを決めてはいけない。「報告」ではなく「共有し、一緒に考える」ことが重要(オープン・ダイアローグ)。対話自体にも癒しの効果がある。

 ケアする人のケアについて、傷ついている人といると自分も傷つく。これは誰にでも起こりうることで、個人だけでなく組織にも起こる。セルフケアのヒントとして、自分の「声」も大切にすることが大事である。

 

○部会別研究協議

第1部会「学校経営と組織活動」

研究協議題「心豊かにたくましく生きる力を育むための特色ある学校経営と組織活動の進め方」

提言者 市立札幌豊明高等支援学校  養護教諭 保志場 みく 氏 〈提言1〉

    市立札幌藻岩高等学校 校長 尾崎 茂樹 氏 〈提言2〉

助言者 札幌学校薬剤師会

副会長 中山  章 氏

    札幌市高等学校・特別支援学校長会

 校長 下山 敏晴 氏

運営者 札幌市学校保健会  

事務局次長 石井 貴司 氏

司会者 市立札幌豊明高等支援学校

 校長 小山 学 氏

 

〈提言1〉高等支援学校における保健室の役割~生徒がよりよく生きる人生を目指して~

 保健室の利用状況として「怪我」「病気」「相談」の3項目の件数に差はほぼなく、怪我や病気と同じ頻度で相談したい生徒が来室している。

具体的な取り組みとして性の指導を行った2例について紹介した。

高等支援学校における保健室の役割として心がけていることとして、

・生徒の特性や個に合わせた対応をすること

・家庭環境等に配慮し言葉がけを注意すること

・言葉で伝えることが苦手な生徒には文字で選択肢を示す

・気持ちをうまく伝えられない生徒には気持に寄り添い感情に合った言葉を一緒に探すことが挙げられる。

 

 保健室は『曖昧な場所』『いつでも話ができる場所』として機能し、養護教諭は『話を聞いてくれる人であることが重要である。

 

〈提言2〉生徒の安全・安心を目指して~藻岩高等学校保健委員会の取組から~

 令和3年度の学校保健員会はコロナ第5波と6波の合間を縫って2年ぶりに開催された。参加者は学校内科医、学校歯科医、学校耳鼻科医、学校薬剤師、PTA会長、PTA副会長2名、PTA年次委員長2名、校長、教頭、事務長、各年次主任、保健主事、養護教諭2名、スクールカウンセラーだった。学校保健に関する説明の後に学校3師からの助言があった。

 今後札幌市は高等学校も含めてコミュニティー・スクールの導入を積極的に推進していく。学校運営協議会の安全健康部門として、学校と保護者や地域の医療専門機関が熟議を行いより実効的で効果的な組織を目指すこともできるのではないだろうか。

(堀 稔 記)

 

○部会別研究協議

第2部会「保健管理・保健教育、安全管理・安全教育」

研究協議題「生涯にわたって健康で安全な生活を送るために必要な資質や能力を育むための、学校、家庭、地域の関係機関が連携した保健管理・保健教育、安全管理・安全教育の進め方」

提言者 札幌市立宮の森小学校 

養護教諭  照井 沙彩 氏 〈提言1〉

    札幌市立札苗緑小学校 

  教頭  成田 慶輔 氏〈提言2〉

 助言者 札幌市学校医協議会 

  会長 岡村 暁子 氏

    札幌市小学校校長会 

  校長 高橋 直之 氏

運営者 札幌市学校保健会  

事務局次長 大宮 健一 氏

司会者 札幌市立篠路小学校 

 校長 千葉 剛禎 氏

 

〈提言1〉自ら健康について考え実践できる子どもの育成を目指した保健教育~「もりもりタイム」の取り組みを通して〜

 平成30年より学級活動:子どもたちが自分の生活習慣を見直し、体と心を大切にして、もっと元気もりもり過ごしてもらうねらいで、「もりもりタイム」を実施している。今年度の指導は6月「しっかり眠って元気に過ごそう」、9月「リクエストもりもりタイム」、2月「かぜに負けない生活をしよう」の年3回で1回1コマ(45分)で行っている。毎回テーマは変わるが、「運動・食事・睡眠」の関連とそれらの大切さについて内容を構成している。

 「もりもりタイム」の翌週の月曜日から金曜日までの5日間は「もりもりタイムカード」を使用して、めあてを達成できたかを3段階で自分自身の生活を振り返る。5日間頑張ったことやもう少し工夫できそうなことを記入し、家庭に持ち帰る。保護者にも記入内容を見てもらうことで、学校の取り組みが伝わり、保護者の意識も変わることを期待している。

 子どもの行動や生活を変容させるには指導の積み重ねが必要である。今後も「自分の生活をよりよくしたい」という子どもたちの思いが一過性のものとならないよう、根気強く指導を継続していきたい。

 

〈提言2〉学校・地域・保護者・児童・関係機関が手を取り合いながら進める安全教育

 令和3年12月、「新型コロナウイルス感染症に気をつけた避難の方法を知ろう」というテーマで安全教室を行った。本校「PTAお父さんの会」主催で、東区役所地域安全係と連携をして活動を行った。取り組みの内容は

・災害用キーボックスの説明

・備蓄物資の説明

・新聞スリッパの作成

・避難所受付の説明

・段ボールベットの作成、片付け

・安全に関するクイズ

 令和5年7月、「避難所運営研修」を実施した。札幌市、関係会社の主催の下、区役所職員、学校教職員、地域・町内会の方と連携して研修を行った。研修会の内容は

・避難所運営について

・学校施設等の確認

・避難所運営ゲーム

災害が起きた時には普段想定していないことが起こる。大切なのは1回で終わるのではなく、継続した取組を、様々な立場の人と連携しながら行っていくことだと考える。

 発表のあと、避難所で健康管理のようなことは実施されましたかとの質問があったが、今回は実施しておらず今後検討するとの回答があった。 

 提言者2名の発表後、助言者より、今後、児童・生徒の指導を行うにあたり、ICTの活用も多くなってくると考えられ、より効率的に指導ができるのではないか。また「自分の命は自分で守る」という安全意識を高めるために、このように体験させることは非常に重要であり、継続して実施されることを期待する、と伝えられた。

(山本 崇 記)

 

 

○部会別研究協議

第3部会「現代的健康課題」

研究協議題「多様化する現代的健康課題に適切に対応するための保健活動の進め方」

 

提言者 札幌市立発寒中学校 養護教諭  宮島 美由紀 氏 〈提言1〉

    札幌市立北陽小学校 栄養教諭  大塚 弥生 氏 〈提言2〉

    助言者 札幌歯科医師会 副会長 髙橋 修史 氏

         札幌市中学校長会 校長 下山 敏晴 氏

運営者 札幌市学校保健会 

事務局次長 佐々木 豊文 氏

司会者 札幌市立羊丘中学校 校長 小林 大介 氏

 

〈提言1〉多様な性に関する取組からつながる「発寒中D&Iプロジェクト」

 教職員全体でLGBTsへの配慮を考え、多目的トイレの使用、部活動、旅行的行事、委員会のあり方などの具体的な対策を行う。令和5年度入学生から新たな標準服の着用となる。具体的には、ジェンダーレス制服・略装(ポロシャツ・ハーフパンツ)、ベストの着用可、ネクタイ・蝶タイの自由選択など、LGBTsへ配慮のみならず、暑さ対策にも加え、生徒が自分で考え選択できるものとした。また経済的観点から略装やベストは色のみ指定とし、市販のものも可である。

 一人一人の個性を認め、多様なあり方をありのままに受け入れられるような集団作りを目指すD(ダイバーシティ)&I(インクルージョン)の考えを生徒指導に取り入れて「これまで当たり前とされていた男女を前提とした仕組みや制度」を「誰もが安心して生活できるもの」への変革を推進する。

 今後は我々も学校健康診断の時のみならず、診療室などでもSDGsに基づく「LGBTsへの配慮」など「誰一人取り残されない」を目標として、無理のない範囲でできることを続けていくことは重要である。

 

〈提言2〉「朝食をしっかり食べる子ども」を育てるために食育の推進~食生活調査の結果を活用した科学的根拠に基づいた食育~

 札幌市では市立小学校・中学校・特別支援学校を合わせて計298校で完全給食(パンまたは米飯とおかず、ミルク)を実施している。自校分のみ調理する単独校、自校分と他校(子学校)分を調理する親学校、調理施設がなく親学校から給食の提供を受ける子学校の3種類がある。調理施設のある単独校と親学校に栄養教諭・栄養士が配置されている。

 札幌市内の小学5年生と中学2年生を対象に食生活調査をグーグルフォームにて行い、実態を把握し食育の推進に役立てている。毎日朝食を摂取している児童・生徒は早寝早起きで、毎日排便もある。また、疲労感やイライラ感が少ないなど心の健康の面でも朝食摂取は良い結果が出ている。しかし、令和になってから中学生の朝食摂取が減少していることもあり、家庭科で主食・主菜・副菜が揃ったバランスのよい朝食を作るにはどうしたらよいかというテーマで食の自己管理能力の育成をおこなっている。

 子どもたちの健やかな体の育成のためには、心身の健康、特に食は重要であり、今後はICTを活用とした食育推進は大切である。

 

(辻村 祐一 記)