大会・研修会報告
第87回全国学校歯科保健研究大会
2023年10月19日、大阪国際交流センターにて第87回全国学校歯科保健研究大会が開催されました。主題は「口腔から全身の健康づくりを目指して」、副題は「いただきます 人生100年 歯と共に」~つなぐ、子どもたちの未来へ~です。開会に先立って大阪府立久米田高校ダンス部・太鼓部によるアトラクションが披露されました。開会式・全日本学校歯科保健優良校表彰の後、作家で歯科医師でもある上田秀人氏による特別講演「江戸時代の医師修業」が行われました。
【シンポジウム】
今回のテーマは「ICTを活用した学校歯科保健」
ということでシンポジウムが行われました。まず始めに文部科学省初等中等教育局の松崎美枝氏より「学校保健におけるICT活用の推進について」というタイトルで基調講演がありました。
事例としてタブレット活用により歯磨きの経過観察が可能となって、子供たちの意欲が向上した事や学校保健委員会をオンライン開催にすることで保護者や学校医の参加率がアップしたことなどが報告されました。
次にパネルディスカッションが行われ、まず日本学校保健会専務理事の弓倉整氏が「医療情報の電子化という観点からの学校保健」というタイトルで話されました。
「政府は急速に医療におけるデジタル化を推進しようとしている。その一環としてPHR(Personal HealthRecord)の整備が進められており、これを活用することにより国民が自らの保健医療情報を適切に管理・取得できるようになると考えられている。そうなると当然ながら歯科医療も医療DXの対応が必要になってくる。」
二人目のパネリストとして可児市立土田小学校の大橋あげ葉氏が「主体的・対話的で深い学びができる児童の育成」というタイトルで話されました。「高学年の児童が低学年の児童とそれぞれペアになり、歯ブラシの仕方や磨き残しなどについてタブレットを使用してコミュニケーションを行なっている。高学年の歯磨きを見せることによって、低学年も高学年のように磨けるようになりたいという意欲につながった。ICTを活用した歯科保健を進めていくことで、距離や時間、場所に関係なく学校歯科医や地域、保護者と連携する事が期待できる。」
三人目のパネリストとして宮城県歯科医師会学校歯科部会副部会長の佐藤晶氏が「学校歯科医からみた学校歯科保健におけるICTの活用」というタイトルで話されました。保育園・幼稚園の取り組み、小学校の取り組み、中学校の取り組み、それぞれの年代でどのように指導していくのかが紹介されました。
「ICTが推進されることで歯科保健教育が益々充実し、子供たちがどの発達段階にあっても健やかに成長を重ね、健康な生涯を見据えた知識や意欲を向上させ、行動につなげる事が重要である。」
それぞれの発表後に座長の日本学校歯科医会の齋藤秀子氏より各パネリストのICTの活用の利点、欠点、改善策などについての議題が示され、白熱したディスカッションが行われました。
【小学校部会】
まず始めにアドバイザーである鶴見大学歯学部小児歯科学講座の朝田芳信教授より導入発表がありました。テーマとして「小学生期における学校歯科保健活動〜口腔から全身の健康づくりを目指して〜」が挙げられました。10年前に比較して永久歯の萌出時期が遅くなっており、咀嚼の質等の変化に問題が生じる可能性があることや食育の重要性についての内容でした。その後、研究発表がありました、堺市立東浅香小学校からの発表では、ICTを活用した保健指導に力を入れており、学校歯科医による保健指導の際にも自分の口腔内の状況をタブレットに入力を行ったり、普段の生活リズムをタブレットに入力を行い、問題点を自分自身で気づいてもらうために使用しているとの事でした。また今後の課題としては学年が上がるにつれ、健康な生活に対する意識が下がるため、興味関心を継続させるための方法を考える必要があると報告がありました。
次に鹿児島市立山下小学校からの発表では、児童自身が学校歯科医にインタビューをした動画を流したり、児童がアナウンサーになり口腔衛生に関する番組を作ったり、独自の歯磨きソングを作成し、昼休みの歯磨きタイムに流すという取り組みが紹介されました。今後の課題としては「歯磨き」が定着しない児童もいるため「自分の健康は自分で作る」という自己管理能力を高める保健指導を継続していく事が挙げられました。
(山本 崇 記)
【特別講演要旨】
江戸時代、医者の身分は基本的に僧侶であった。ただし幕府や藩に抱えられた医師は武士身分とされた。僧侶であるため診療は無料というのが建前で、収入は謝礼、薬代、往診代(籠代)であった。1回の薬代は現在の換算で15万円程だったと考えられる。
医者になるための全国共通の教育や資格試験はなかった。いくつかの藩では医学寮などで必要な教育を受け、吟味に通らなければ家を継いで医師として藩に抱えられることができなかった。
庶民の場合は手習いの後、優秀なものは推薦を受けて医師の元に入門し丁稚奉公を始める。そこから認められたものが江戸や大阪、京都、長崎などへ遊学した。(領域別協議会はオンデマンド配信にて行われました。)
【特別支援教育部会】
始めにアドバイザーである昭和大学歯学部口腔衛生学講座の弘中祥司教授より導入発表がありました。これからの特別支援教育のKey wordsとして「インクルーシブ教育」「共生社会の実現」「ICTの活用」が挙げられます。特別支援教育を受ける児童・生徒は増加していますが、特に小中学校の特別支援学級や通級指導が増加しています。また学校における医療的ケア児も増えていますが、教育委員会による医療的ケア児に対するガイドラインの策定状況はまだ十分ではありません。学校歯科医には特別支援教育の児童・生徒への理解が求められます。
続いて2校から研究発表が行われました。大阪府立とりかい高等支援学校からは、生徒全員が昼食後の歯磨きをする「ハミガキ100%大作戦」への取り組みが報告されました。奈良県立二階堂養護学校からは歯科保健に対して意識を向上するための取り組みが発表されました。また、歯科医院受診が困難な児童生徒への対応として学校歯科医のアドバイスを元にバキュームや3WAYシリンジのモデルを作成した事例も報告されました。
(堀 稔 記)