令和5年度全国学校保健・安全研究大会 / 第73回全国学校歯科医協議会(神戸)

 10月26日(木)、27日(金)の両日「令和5年度全国学校保健・安全研究大会」が神戸市にて開催されました。またこれに伴い、26日には「第73回全国学校歯科医協議会」が主催:一般社団法人兵庫県歯科医師会、共催:公益社団法人日本学校歯科医会、公益社団法人神戸市歯科医師会にて開催されました。「全国学校保健・安全研究大会」は神戸文化ホール・神戸市立中央体育館、「全国学校歯科医協議会」は兵庫県歯科医師会館・相楽園にて行われました。

 

○全国学校保健・安全研究大会1日目

 文部科学大臣表彰式では、北海道から札幌市立平岡公園小学校 小島 健 先生、北広島市立緑陽中学校 藤川隆義先生、元 室蘭市立翔陽中学校 金子 光則 先生の3名が表彰されました。その後、全体会記念講演『演題:「ネット・ゲーム依存の成り立ちと対応」講師:神戸大学大学院 曽良 一郎 特命教授』が行われました。現在専門診療を実施している医療機関が限られており、家庭や教育現場、行政機関などが対応に苦慮しています。現状は今後も深刻化すると考えられ、教育界・行政・医療界の緊密は連携が求められます。

 

○第73回全国学校歯科医協議会

 この大会は全国から学校歯科医が集い、学校歯科保健の最新の知見及びその実践の普及に寄与する資質・能力の向上を図るために開催されています。

『ヤングケアラーについて理解を深めるシンポジュウム』

基調講演:【ヤングケアラーの現状と学校・歯科医療ができること】

講師:大阪公立大学現代システム科学研究科 濱島 淑惠 准教授

 

[パネリスト]

大阪公立大学現代システム科学研究科 濱島 淑惠 准教授

日本学校歯科医会 柘植 紳平 会長

兵庫県立明石高等学校 北中 睦雄 校長

特定非営利活動法人ふうせんの会 山中 葉月 氏

[コーディネーター]

兵庫県歯科医師会 橋本 芳紀 会長

 ヤングケアラーとは「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている若者」のことを示します。調査では小・中・高などで約5%前後(クラスで2名程度)います。ケアの相手はきょうだい、母親、祖母、父親、祖父などが多いです。頻度はほぼ毎日が半数くらいを占めますが、時間としては1時間未満と短時間が多いです。しかし、なかには学校がある日に4時間以上のケアをしている者も9%いました。

 ヤングケアラー本人は、ケアによって負の影響が生じていることに気づいていないことがほとんどです。よって、潜在化しやすく、支援が届かないことが多いので、まずは周囲の大人が気づくことが重要です。学校での気づきとしは、遅刻、欠席、居眠り、忘れ物が多い、衛生状態が悪い、よく体調不良などで保健室にくる、情緒不安、友人関係がうまくいっていない等です。

 歯科との接点は決して少なくはありません。家族の付き添いとして歯科医院に来院するケースも多いです。本人自身が急にむし歯ができはじめた、歯肉炎になったなど口腔内の状態が思わしくなくなることがよくあります。また家族の口腔ケアを担っていることもあり、方法がわからずに疑問や不安をいだいている場合もあります。そのような場合に歯科医療従事者としてこどもにもできる口腔ケアの方法を教えることなども重要な支援となります。

 最も重要な支援は「ただ聴く」ことです。手伝いのこと、家での様子など出てきた話について、善悪を評価するのではなく、ただ頷き、聴き、受け止めることが重要です。その上で必要な場合に学校に情報提供や共有を行い、スクールソーシャルワーカーにつなぐと良いです。また、地域のヤングケアラー相談窓口、支援団体、行政機関と連携するなど、医療・教育・福祉のネットワークが必須となります。家族だからといってひとりで背負う必要はないこと、助けてくれるところがたくさんあることを伝えることが大切です。

 

○全国学校保健・安全研究大会2日目

・課題別研究協議会 〈午前の部〉 

第8課題 『学校事故防止対策』

講師:東京学芸大学 渡邊 正樹 名誉教授

指導助言者(コーディネーター):東京都葛飾区立花の木小学校 伊藤 進 校長

研究発表者:独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付事業部調査課 後藤 元子 課長、神奈川県平塚市立土屋小学校 五十嵐 透 校長、京都市教育委員会事務局体育健康教育室 西田 鉄平 主任指導主事

 日本スポーツ振興センター(JSC)の災害共済給付データ(学校等事故事例検索データベース)を活用して事故の傾向を把握することも事故防止対策には重要です。また、歯・口の外傷のフローチャートポスターやスポーツ事故防止ハンドブック・スポーツ事故対応ハンドブックや映像資料などもJSCホームページからダウンロードできます。

 マニュアル作成・評価・見直し、安全点検の実施・改善、ヒヤリハット事例活用、実施訓練など学校事故防止対策も医療事故防止対策も基本的に同じように感じます。未然に防ぐ事前の危機管理や発生時の適切な対応などが重要です。

 

・課題別研究協議会 〈午後の部〉

第5課題 『歯・口の健康づくり』

講師:明海大学 安井利一 名誉教授

指導助言者(コーディネーター):品川区教育委員会事務局総合支援センター 唐澤 好彦 特別支援教育担当課長

研究発表者:大阪府立なにわ高等支援学校 寺井 基起 保健主事、茨城県東茨城郡大洗町立南中学校 迫田 祐子 養護教諭、兵庫県姫路市立御国野小学校 黒田 真未 養護教諭、

 なにわ高等支援学校は、生徒が大阪府全域から公共交通機関を利用して通学している高等部単独の支援学校です。職業専門学科も設置し、より実践的な職業教育を行っています。令和3年度には大阪府よい歯・口を守る学校・園表彰事業にて「大阪府教育委員会賞」を受賞しましたが、そのときは教員が主体となって行っていました。次年度からは更なるステップアップを目指し、自ら意識できるように生徒主体の活動へチェンジしております。生徒保健委員会で活動テーマを決め「ヘルスクリーンチェックシートの活用」「学校歯科医へのインタビュー」「歯みがき定着に向けてのポスター作り」「全校集会で全校生徒へ周知」「歯みがき指導」などを実施しています。また「大阪府学校保健研究大会で発表」という大勢の人の前で、自らが考え取り組んだものをプレゼンテーションするという貴重な経験は、今後の就労を通じた社会参加の糧になるものでしょう。

 大洗町立南中学校では、小学校とも連携して9年間を通した食と歯・口の健康づくりに関する実践を重ねることで、心身ともにたくましく生き抜く力の育成につなげていました。「歯科保健教育」「食育」「基本的は生活習慣の指導」の3つを柱として、発達段階にあった指導計画のもと継続して取り組んでいます。「給食後の歯みがきタイム」「小中合同教職員への歯の外傷についての緊急対応シミュレーション研修」「小中合同学校保健委員会」「PTA行事で大人の歯みがき教室」など興味深い活動を行っておりました。

 姫路市立御国野小学校では、『命の入り口「歯と口」の健康を通じて豊かな心とたくましい体を育む』の趣旨のもとに、学校・家庭・地域との連携を通して実践活動を行っています。栄養教諭と連携して「かみかみ献立」の日をつくり、小魚や昆布を食材にしたメニューを提供して、噛むことの重要性を認識するように指導していました。また、歯や口の健康について興味関心をもつように、学校司書と連携して「歯に関する本のコーナー」を作っています。絵本や教科書で紹介されていた本、調べ学習に活用できる本などを図書の時間や総合的な学習の時間で活用していました。

(辻村 祐一 記)